「コンパクトシティ」の創設は税金の無駄遣いである――自民党の補正予算案(2012年度)を批判する

 
嫌な予感が当たった。

僕は国土交通省が推進している「コンパクトシティ」政策をブログで何度も批判している(→*1)。また、今月の衆院選の選挙期間中には自民党の選挙公約の「国土強靭化200兆円計画」を何度も批判している(→*2)。そして、前述の「嫌な予感」とは、この二つが“合体”する事である。では、昨日の日経新聞のニュースより(下記)。ま、本当は、前回の「2012年に最も読まれた記事」の記事で、今年(2012年)のブログの更新は終わりにするつもりだったのだけどw、看過できないので、取り急ぎ書いておく。

補正予算、「ハコモノ」続々復活 コンパクトシティ・用水路…
日本経済新聞、2012年12月28日)

 1月中旬に閣議決定をする補正予算の編成作業が各省庁で本格化してきた。28日は自民党の部会で、農林水産省などが補正予算に盛り込む要求項目を説明した。耐震化や老朽インフラの整備が柱だが、民主党政権では実現できなかった公共事業の上積みを模索する動きがある。

 農水省は「必要な改修工事ができず用排水路全体の2割が耐用年数を超えている」と民主党政権で減らされた予算の増額を狙っていた。(中略)国交省中央自動車道の笹子トンネルの天井板崩落事故などを受けて、全国のトンネルや道路、堤防などの点検や耐震費用の一部を補正予算などに計上する方向だ。

 さらに、徒歩圏内で生活できる「コンパクトシティ」の創設を支援する案が浮上。将来のインフラの維持費を抑えることにはつながるが、民主党政権で減らされた公共事業費を確保したいという考えがにじむ。

はっきり言おう。「コンパクトシティ」を構築しても「将来のインフラの維持費を抑えること」にはつながらない。しばしば、「インフラの維持管理費を下げるために『コンパクトシティ』化を推進しよう!」と言う人を見かけるのだけど、僕は前から不思議に思っていたのだけど、そう言う人に限って、具体的なデータ(試算)を絶対に出さないのである。それはなぜか。理由は簡単である。「コンパクトシティ」を構築してもインフラの維持管理費は、たいして下がらないからである。微々たる効果しかないのである。

これは前に本ブログの「コンパクトシティは地球に優しくない、エネルギーの無駄遣い」の記事で、「コンパクトシティ」を構築してもエネルギー消費量は16%しか減らない、と書いた事と同じ論理である。「コンパクトシティ」を構築してもインフラの維持管理費はせいぜい1割、多くても2割程度しか減らないのである。

例えば、宇都宮市の試算では、現在、郊外に住んでいる人の50%(半数)を「コンパクトシティ」圏内に移住させてもインフラの維持管理費は全体で3〜4%しか減っていない。「コンパクトシティ」化による効果を出すには、中途半端な数の人口の移住では、ほとんど無意味なのである。同様に、宇都宮市の試算では、現在、郊外に住んでいる人の100%(全数!)を「コンパクトシティ」圏内に移住させてもインフラの維持管理費は全体で約15%しか減っていない。そして、これが最大値なのである。*3

更に、前に本ブログの「【車載動画】秋田市の中心市街地」の記事のメモで引用したように、「コンパクトシティ」を構築するには「巨額の財政出動」が必要である。でも、前述したように、巨額の財政出動して「コンパクトシティ」を構築しても微々たる効果しかないのである。全く割が合わないのである。トータルでマイナスになるだろう。また、維持管理費は、維持管理を行う地元の雇用者を通じて、支払われた費用が地域内を還流する事にもなるのだけど、「コンパクトシティ」の建設費は、短期的にはもちろん地元の土建業者を潤わせるのだろうけど、中長期的には自治体はひたすら建設費の返済に追われる事になるだけである。80年代のバブル期や90年代の日米構造協議以降に建設された「ハコモノ」施設の建設費の返済に、地方の自治体がどれだけ苦しめられているのかを、よく思い起こすべきである。

大雑把に言えば、「コンパクトシティ」とは新しい「ハコモノ」施設でしかないのである。80年代や90年代には大量の「ハコモノ」施設が都心部の外側の郊外に造られた。そして一通りの施設を造ってしまったので、今度はそれと同じモノを都心部にもう一度造ろうとしているのである。「コンパクトシティ」の美名のもとに、かつて郊外に造ったものと同じモノを都心部に再び造ろうとしているのである。土建業者にとっては二度美味しい。でも、私たちにとっては二度目の重い負担である。

以上です。

と言うわけで、前に本ブログの「松谷明彦著「人口減少時代の大都市経済」からの引用集(メモ)」の記事で、松谷明彦著「人口減少時代の大都市経済――価値転換への選択」(2010年)から引用したように、「人口減少時代の財政に求められているのは、行政コストを最小限に抑える努力」なのである。また、同教授は、「日本を救う「人口流動」、地域社会は蘇る 金融機能は大阪へ移転――松谷明彦・政策研究大学院大教授(上)」(JBpress、2010年4月26日)で、「どんなケースでもダメだと言うつもりはないが、人口が継続的にずっと減少している時にコンパクトシティは意味がない。(中略)郡のサイズで「拠点分散」を検討すべきだ。その方がカネも掛からない」と述べている。これが正しい答えである。私たちが目指すべき未来の都市の形はこれである。決して「コンパクトシティ」ではない。

ではまた。

(追伸。今回のこの記事は時間の都合上、急いで書いたので、かなり端折っている。書き足りない(汗)。そのうち詳しく書きます(たぶんw)。今回のこの記事に対する意見、質問、反論、文句等々がありましたら、この記事のコメント欄か僕のツイッターに寄せてください。では、良い年末年始を。ドタバタ。)

*1:本ブログの「コンパクトシティは地球に優しくない、エネルギーの無駄遣い」、「コンパクトシティの正しい答え――中心市街地の再生は諦めて、住宅地にする」、「戦いは終わらない――「中心市街地」対「大型ショッピングセンター」」、「「コンパクトシティ」から「道の駅」を拠点とした新しい都市へ」等々の記事で僕は国土交通省が推進している「コンパクトシティ政策」を批判している。

*2:本ブログの「耐用年数を超えた高速道路の維持更新に税金は1円もいらない――笹子トンネル崩落事故を政治利用する自民党を批判する」、「有権者の力で政治は変わる――日本維新の会の街頭演説に行ってみた in 銀座」、「選挙はもういい、次は紅白だ、NHK紅白歌合戦が日本を変える――初音ミクに「千本桜」と「マトリョシカ」を歌わせろ」等々の記事で僕は自民党の「国土強靭化200兆円計画」を批判している。

*3:一応、高松市の試算では、「コンパクトシティ」化によって、インフラの維持管理費は約25%減ると出ている。でも、これは眉唾ものだと思う。ま、傾向としては、人口規模が小さい都市ほど「コンパクトシティ」化の効果はあるようである。いずれにせよ、僕が調べた範囲では、この高松市の約25%が最大値である。