都市集約によって市民は困窮する――国土交通省の「改正都市再生特別法」の非情

 
国土交通省の暴走だな。

改正都市再生特別法が成立 病院など都市集約後押し
日本経済新聞、2014年5月14日)

 地方都市で病院や商業施設を街の中心部に集めるよう促す改正都市再生特別措置法が、14日の参院本会議で可決して成立した。容積率の緩和や税財政面の優遇措置を通じて、郊外から中心街への施設の移転をめざす。公共交通網の再編をしやすくする改正地域公共交通活性化・再生法も同時に成立。人口減や財政難に直面する地方で持続可能な街づくりを後押しする。

 改正都市再生特措法では、市町村が街の中心部を指定し、施設の立地を促す仕組みをつくる。具体的には、医療・福祉施設や商業施設などを集める「都市機能誘導区域」を決め、容積率の緩和や税制優遇、補助金制度で郊外からの移転を促す。(後略)

病院なんて都心よりも郊外につくったほうが安く済むのに、わざわざ都心につくる政策を立てるなんて国土交通省はどうかしている。財政難なのに、わざわざコストのかかる政策を立てるなよ、と言いたい。商業施設だって、都心よりも地価の安い郊外につくったほうが商品の価格が安くなるのに。「都市集約」によって市民は高い家賃と高い生活費を負担しなければならなくなる。

高い家賃と高い生活費を負担できる所得層にとっては「都市集約」されたコンパクトシティは理想的な環境かも知れないが、負担できない人々は、行き場を完全に奪われる。

昨年の夏、『エリジウム』という映画が公開された。これは2154年の近未来を描いたSF映画で、人類は2つの世界に分断されている。富裕層は「エリジウム」と呼ばれるスペースコロニーに居住し、貧しい人々は荒廃した地球に暮らしている。「都市集約」されたコンパクトシティとは、この「エリジウム」に他ならない。

*1

ところで、BLOGOSに良い記事があった。「子どもを育てにくい日本が人口減少するのは当たり前 〜若者・子育て支援に求めるもの〜」(藤田孝典、2014年5月15日)である。一部引用すると、日本では「子どもがいる子育て世帯は、子どもを育てること自体が困難な状況に追い込まれている」のに対して「欧州では大学授業料が無料であったり、(略)また、住宅も公営住宅が安価で相当数提供されており、住宅ローンの返済に苦しむ国民が日本ほどいない」「当たり前の政策が日本にはない」とのことである。

当たり前の政策が日本にはない。

「改正都市再生特別法」には市民への住宅政策(安価な公営住宅の供給)がない。

おそらく日本にあるのは「土建体質」だけだ。

国土交通省が「都市集約」にこだわるのも、都心に「ハコモノ建築」を建てられるからだ。

あと、もう一点。大体だけど、現在の人口が30万人以下の都市と、人口が50万人以上の都市では、都市政策は正反対のものになるだろう。というか、都市の人口規模に応じた現実的な政策を立てなければ意味がない。国土交通省の「改正都市再生特別法」がこうした区別をきちんと踏まえているかどうかが気がかりである。全国の都市を一律の基準で法制化することにそもそもの無理がある。地方分権を真剣に考えたほうが良いだろう。

*1:僕がTogetterにまとめた「コンパクトシティはエリジウムだ」も参照。