コンパクトシティは地球に優しくない、エネルギーの無駄遣い

  
僕は、国交省が進めている「コンパクトシティ」政策に対して、とても懐疑的です。その理由は僕はブログにしつこいくらいに書いています。一応、僕がこれまでに書いた「コンパクトシティ」批判に関するブログ記事をまとめると、日付の古い順に、(僕の)別ブログの「Kinkyo-2」の記事では、「車社会化された現代で駅前商店街が衰退したとしても嘆くことでもない」、「Coffee & TV」の記事では、「人に合わせて公共サービスを行うべきで、公共サービスに合わせて人が暮らすのはおかしい*1」、「Transit City (Integral Project-3)」の記事では、コンパクトシティは「自由をなくす」、「イオンレイクタウン-3」の記事では、「都心対郊外という二元的な図式はじつはあまり意味がない」、「エソラ」の記事では、「中心位置を元に戻そうというのは、かなり無謀なのではないか」、「アルチュセール」の記事では、「地方都市の中心市街地を再生させる必然はない」、「ニューコンパクトシティ」の記事では、コンパクトシティは「非現実的かつ不公平である*2」、「Star House (星型の家)」の記事では、「人口が継続的にずっと減少している時にコンパクトシティーは意味がない*3」と書いています。そして最近の本ブログの「2020年の東京」の記事では、コンパクトシティは「逆進性がある」、「全国の都市を一律に「コンパクトシティ」に誘導するよりも、それぞれの都市がそれぞれの実情にあった解決策(都市政策)をつくるほうが良いのではないか」と書いています。(興味がある方は、それぞれの記事を読んでみてください。是非。)

では本題。

ではこれから上記の一連のブログ記事と、全然関係のない事を書きます(おいおいw)。今回の記事タイトルについて書きます。コンパクトシティは「地球に優しい」、「環境共生型」である、「省エネ」である等々とあちこちで語られています。また、その際に必ずと言っていいほど用いられる常套句は、「鉄道駅を核としたコンパクトシティは、エネルギー効率が高く、地球環境への負荷が小さいという特長を有している。鉄道で一人の人間を1km運ぶのに必要なエネルギー消費量は、バスの約2分の1、自家用車の約6分の1である。」、「鉄道のCO2排出量はバスの約4分の1、自家用車の約9分の1である。」、更には、「鉄道の乗客一人当たりの空間占有量は、バスの25分の1、自家用車の120分の1である。」等々です。でも、これらのデータは、ただの「見せかけ」です。

海道清信著「コンパクトシティ―持続可能な社会の都市像を求めて」(2001年)から少し引用すると、「都市形態は都市の持続可能性に大きな影響を与える基本的な要素である(中略)。都市の持続可能性は、都市形態だけに関わっているわけではないが、エネルギー消費の70%が土地利用計画の影響を受け、交通からの廃棄物は、土地利用計画や政策によって16%削減可能と考えられている。*4」(P.21)との事です。つまり、鉄道のエネルギー消費量は「自家用車の約6分の1」だから、「鉄道駅を核としたコンパクトシティ」に造り変えると、交通のエネルギー消費量は「約6分の1」になる(83%削減可能)、というわけでは決してないのです。よって、上記のような常套句は、誤解を招くおそれがあるので、無闇に用いないほうが良いでしょう。でも、もちろん、「16%削減可能」は十分に有意な数字で、最近流行っている「原発○基分」で換算するとw、原発10〜20基分ぐらいになると思います*5。それならば、コンパクトシティを推進したほうが良さそうにも見えます。でも、違いますw。

なぜなら、上記の交通のエネルギー消費量だけでは不十分で、その他に、建設のエネルギー消費量(コンパクトシティを建設する時に消費されるエネルギー)も考慮に入れなければならないからです。コンパクトシティが「地球に優しい」等々かどうかは、全体の集計量(マクロ)から決まるのです。(興味がある方は、ウィキペディアの「ライフサイクルアセスメントLCA)」の項を参照。)

では、「交通エネルギー・建設エネルギーからみたコンパクトシティの是非」(土木学会 、2004年、坂本京太郎、北村隆一、→PDF形式)の梗概から引用します(下記)。

■ 1. 背景と目的

 資源問題や環境問題が叫ばれる昨今、化石資源の有効利用に向け、交通部門のエネルギー利用効率化は迫られた課題である。交通需要を抑え、交通エネルギー消費量を削減するための手段として、有効な土地利用形態や都市構造の構築が提案されてきた。その1つが現在、都市計画の分野で議論されているコンパクトシティであるが、実効策が具体化していないのが現状である。
 わが国でコンパクトシティの構築を進めていくとなると、現在の都市構造をより高密にする必要がある。しかし、現在多くの都市圏外延部では郊外型の低密で自動車利用に大きく依存する生活様式が定着しており、その生活様式に合わせた商業施設や道路等の公共施設の整備がなされている。このような中でコンパクトシティの構築を実行に移すには、その明らかな有意性が確認される必要がある。
 コンパクトシティのような高密な土地利用が、交通エネルギーの効率利用という観点から望ましいということは過去に示されている。しかしこれらの研究は、都市をコンパクトにした結果のエネルギー効率性について述べているに過ぎず、現状からコンパクトな都市を構築する過程のエネルギー負荷を考慮しているものは見当たらない。この構築の過程を考慮した上で、コンパクトシティ構築の有意性を明らかにしてこそ、実現の可能性が見えてくると言えよう。
 本研究では、コンパクトシティを構築することによって削減される交通エネルギーを「正の側面」、反対に構築の際に必要不可欠となる住居や道路、公共施設等の整備で消費される建設エネルギーを「負の側面」とみなす。この両側面に着目し、コンパクトシティを構築することがエネルギーの観点から望ましいか否かの分析、評価を行うことを本研究の目的とする。

■ 2. 研究の概要(中略)

■ 3. 世帯の交通エネルギー消費の実態(中略)

■ 4. コンパクトシティのシナリオ分析

(中略)両エネルギーを推定した結果を表-4に示す(上図)。移住を行った世帯の交通エネルギーをみると、京阪神都市圏では4割強の削減、岐阜都市圏でも3割弱の削減となっている。対象地域に居住する全世帯の消費量から考えると僅かな削減に過ぎないが、確実に削減が期待できる結果となった。岐阜県の方が期待される交通エネルギーの削減量が少ないのは、都心でも自動車に依存する傾向が強いためと考えられる。
 次に、住居の建設に必要となるエネルギーが、両都市圏で、削減される交通エネルギーを遥かに上回る結果となった。どの移住レベルにおいても、交通エネルギー削減量の約70年分に当たる建設エネルギーを要するという結果となった。*6

■ 5. 結論

 都心、郊外ともに建造物の耐用年数は限られているため、新たな建設エネルギーを必要としない都心居住、すなわち住居の更新が迫られた場合に、郊外から都心に移住することはエネルギー効率的にも望ましいと言えよう。しかしそれは飽く迄も個人レベルでの移住であり、大規模で長期的な政策としてコンパクトシティの構築を試みるには様々な障壁の存在が予想される。*7
 人口が減少傾向にあり、郊外の施設の整備が行き届いている現在のわが国で、意図的に高密な地域を作ることは、どこか既存の住居や都市基盤を放棄することを意味する。構造物を新たに建設することが莫大なエネルギーを要することを考えると、これは明らかにエネルギーの無駄遣いである。総合的なエネルギーの効率性を考えると、新たな都市の構築より、既存の施設を長年にわたって使用する工夫や、建物の耐用年数を延ばす技術革新が必要と言える。
 今後の課題として次のことが挙げられる。まずは、住居以外に必要となる公共施設等の建設エネルギーも考慮に入れるという点、さらには都市の高密化による物流の変化を考慮し、より精度の高い交通エネルギーの予測を行うことなどが考えられる。

以上です。

関連して、「多心シナリオによるコンパクトシティ―長岡市の2050年の都市像とCO2排出量評価―」(日本建築学会 、2010年、和田夏子、大野秀敏、→PDF形式)も参照。この論文では、「市場シナリオ」(市場原理にまかせ、現状の都市計画の延長上にできる都市像)と、「単心シナリオ」(コンパクト化するシナリオ)と、「多心シナリオ」(ある程度広がっている現状の都市の骨格を肯定的にとらえ、現時点でポテンシャルの高い多数の中心をつないだ、ゆるやかなコンパクト化のシナリオ)の3つのシナリオを想定して、それぞれの移行時(建設時)と移行後(運用時)のCO2排出量を計算して、「目指すべきは多心シナリオである」と結論づけています。簡単に言えば、ほどほどが良いという事ですw。また、前に(僕の)別ブログの「Googleplex & iSpaceship」の記事と、本ブログの「東京は最大都市規模を超過しているのか」の記事の注釈7で、「21世紀の日本の都市は(コンパクトシティではなく)ネットワーク型の「ニューコンパクトシティ」でいいのです。」と書いたのだけど、これは、この論文の「多心シナリオ」と、よく似ている事ではないかと思います。いずれにせよ、コンパクトシティは、「論理的帰結」ではなくて「理念型」なので、論理を詰めていくのは、まだまだこれからの作業(課題)なのではないかとも思います。以上です。

(追記。次回の「環境理想都市――多心シナリオによるコンパクトシティ」の記事参照。)

ところで、僕は今、山崎哲哉著「環境建築・都市への道―感性と環境技術を結ぶレーベアム思想」(2012年)を読んでいます。とても良い本です。半分まで読みました。この本を買った理由は、前に(僕の)別ブログの「雑記4」の記事で書いた、ドイツ北部のハンブルクの環境都市「ハーフェンシティー」(→動画)と、「ドイツの田園都市」の記事で書いた、ドイツ南部のフライブルクの環境都市「ヴォーバン地区」(→動画)が詳しく解説されているからです。ハーフェンシティーは、「21世紀型低炭素都市」(P.80)との事です。また、ハーフェンシティーには、「OSAKA(大阪)ストリート」(P.81)と呼ばれる大通りがあるらしい(どんなだ?w)。ついでに先週は、堀内重人著「地域で守ろう! 鉄道・バス」(2012年)を読みました。これも、とても良い本です。感動した。この本を買った理由は、来月(2012年7月)に、通常国会で制定される「交通基本法」についてちょっと勉強しておこうと思ったからなのだけど、もしかしたら制定されないかも知れません(ははっw)。まだ分かりません。ではまた。

【補足】

上記の「交通エネルギー・建設エネルギーからみたコンパクトシティの是非」の論文の補足。「5. 結論」の「今後の課題」に関しては、その他に、既存の道路や上下水道等のインフラの維持や補修に要するエネルギーも考慮に入れたほうが良いと思います*8。「既存の施設を長年にわたって使用する工夫」に関しては、前に(僕の)別ブログの「Googleplex & iSpaceship」の記事で書いたのだけど、都市思想家のジェイン・ジェイコブズは、著書「アメリカ大都市の死と生」(1961年)で、「新しいアイデアには古い建築が必要」と述べています。一石二鳥ですw。「建物の耐用年数を延ばす技術革新が必要」に関しては、その反対に、建物の建設エネルギーを減らす技術革新も必要ではないかと思います。うーん。例えば、前に(僕の)別ブログの「For Tomorrow」の記事で、「製造エネルギー(建設エネルギー)から調べてみると、木造住宅の単位面積当りの製造エネルギーは3,390MJ/m2(MJ=メガジュール)に対してRC造(鉄筋コンクリート造)の集合住宅は15,200MJ/m2(約4.5倍)で、このことから木造とRC造では耐用年数の違いはあるけど、それでもRC造はエコロジカルではないということは分かる。」と書いたのだけど、ここから、新しい建築はできるだけ「木造」で建てたほうが良いという事が分かるでしょう。「木造」の技術革新に関しては、(僕の)別ブログの「表記9」(木造4階建て)の記事、「H&Mモデル」(木造高層ビル)の記事等を参照*9。まとめると、環境に配慮して建築をつくるには、(1)古い建築を有効活用する事、(2)建築の耐用年数を延ばす事、(3)建築の建設エネルギーを抑える事、の三つが重要です。補足は以上です。

*1:日本の、これから」、「地方衰退」(NHK、2007年5月19日放送)

*2:「人口減少時代における地方都市の再生に関する調査 調査報告書」(中国経済連合会、日本政策投資銀行、2010年7月、→PDFファイル、P.37)

*3:日本を救う「人口流動」、地域社会は蘇る 金融機能は大阪へ移転――松谷明彦・政策研究大学院大教授(上)」(JBpress、2010年4月26日)

*4:マイク・ジェンクス編著「Achieving Sustainable Urban Form」(2000年)からの引用の引用(孫引き)。僕は未読。

*5:念のため、「原発10〜20基分」は超適当です。僕は「原発○基分」の換算方法は知りません(ごめんなさい)w

*6:(僕の)別ブログの「Natural World-3」の記事参照(「「コンパクトシティ」を築くほうが返って負担(製造エネルギー)がかかるかも知れない」)

*7:(僕の)別ブログの「エソラ」注釈9の記事参照(「僕は「コンパクトシティ」誘導政策には否定的ですが(中略)、この政策による効果は30年後、半世紀後にやっと現れるようなものなので、そういった長期的なビジョンであるという点においては否定しない。ただ、あまりにも長期的過ぎるような気がしなくもない。」)

*8:日本の橋や道路が傷んできた 補修財源「30兆円」足りない」(J-CASTニュース、2012年6月11日)参照

*9:環境に配慮した、木造30階建ての高層ビル」(monogocoro、2012年3月21日)、「カナダで広がる木造ビル構想、森林資源活かし5年内に10〜20棟建築へ。」(Narinari.com、2012年3月27日)、「世界最高層70mの木造ビル計画 オーストリア、20階建て」(共同通信、2009年10月6日)、「“森林大国ニッポン”にチャンスあり! 地方銀行が、新たな「森」と「ビジネス」を育てる」(ダイヤモンド・オンライン、2009年2月18日)、「森林大国・日本が誇る資源に注目 国土保全、地域振興へ林業再生に期待[国際森林年]」(現代ビジネス、2011年4月23日)も参照。(僕の)別ブログの「情報化を経ることで新しい発動を見せるのだ」(「新しい都市(副首都)の建築物を、全て「木造」で造ればいい」)、「森の木琴」(→動画)、本ブログの「堺屋太一の「大阪10大名物」についてのメモ書き」の記事参照(木造)