総合特区

昨日読んだ「総合特区」に関するニュースのメモ。

首相「日本再生の起爆剤に」=自治体に指定書授与−総合特区
時事通信、2012年1月18日)
 野田佳彦首相は18日、首相官邸で地域を限って規制緩和や税財政上の特例措置を認める総合特区の指定書を自治体に授与した。冒頭のあいさつで首相は、「それぞれのプロジェクトが成功し、元気な地域がどんどん出てくる、それが日本再生の起爆剤になると強く期待している」と述べ、自治体に積極的な取り組みを求めた。 
 総合特区は政府の新成長戦略の柱の一つ。昨年12月、産業の国際競争力強化を目指す「国際戦略総合特区」に北海道などが申請した「北海道フード・コンプレックス特区」など7地区、地域産業の振興を支援する「地域活性化総合特区」に静岡県が申請した「ふじのくに先端医療特区」など26地区をそれぞれ指定した。
 首相は併せて、自治体による省エネ化や高齢化対策の先進的な取り組みを支援する「環境未来都市構想」に選ばれた11地域に選定証を授与した。

国際戦略特区への進出企業は固定資産税ゼロ 橋下氏方針
asahi.com、2012年1月18日)
 松井一郎大阪府知事橋下徹大阪市長が18日に会談し、国が指定して規制緩和を図る国際戦略総合特区で、府外からの進出企業などに対し、府の法人府民税と市の固定資産税を当初5年間は全額免除する方針で合意した。
 大阪、京都、兵庫3府県と大阪、神戸、京都3市は昨年末、国から「関西イノベーション国際戦略総合特区」に指定された。大阪市内では先端医療の拠点とする「大阪駅周辺」(うめきた)と、新エネルギーや蓄電技術の拠点をめざすベイエリアの「夢洲(ゆめ・しま)咲洲(さき・しま)」が対象地区となった。
 橋下氏は会談で「市では固定資産税を免除したい」と説明。松井氏は法人府民税を減免する考えを示し、「外から来た人は5年間はゼロ。その後の5年間で少しずつ上げる」と述べた。

僕の出身地の千葉県柏市*1も総合特区に指定されている。「秋山市長「成功モデルを世界に」 「環境未来都市」でも選定証 柏市に「総合特区」指定書」(千葉日報、2012年1月19日)を参照。あと、「国際戦略特区7地域指定へ 36万人雇用創出めざす 東京、外資のアジア本部誘致 愛知・岐阜は宇宙産業拠点に」(日本経済新聞、2011年12月21日)によると、「総合特区の全体で2016年に36万人の新規雇用と約9兆円の経済効果を見込んでいる。」との事です。ニュースは以上です。

前回の「2020年の東京」の記事で、「「大阪都構想」にも「特区」が含まれている。」と書いたのだけど、念のため、橋下徹*2堺屋太一共著「体制維新――大阪都」(2011年)*3から引用しておくと、「(前略)知事一年目にベイエリア経済特区にする! と言っていた時には誰にも相手にされなかったのが、徐々にその話が動き始めてきました。(中略)二〇一一年に国際戦略総合特区が法律化されました。三年前には夢のような話だったのですが、関西は一丸となって、九月三十日に特区の共同申請をしました。この国際戦略総合特区に関西が指定されるかどうかはこれからの話です。これからが勝負ですが、一歩一歩進んでおります。」(P.92)なのだけど、えーと、上記のニュースによると、ベイエリアだけではなくて、「大阪駅周辺」(うめきた)も総合特区に指定されている。

また、東京都も総合特区の申請をしていて、もちろんこちらも指定されている。東京都のHP内の「「アジアヘッドクォーター特区」の指定について」(2011年12月22日)の「指定されたエリアについて」の「別紙2」(上図)を見ると、こちらもベイエリアだけではありません、と言うか、指定されたエリアがあまりにも広くて、驚いた(汗)*4。都内の地価が高いところが全て総合特区になっている。東京都副知事猪瀬直樹*5ツイッター(2012年1月18日)上で、「明日、官邸へ行く。東京が「総合特区」に認定されたから。その認定証を野田首相が授与するのだが、いつの間にか地方も20幾つ特区に認定されているそうで、7つの候補を5つに絞るはずが蓋を開けてみると結局バラマキじゃないか。それで授与の写真を1分ずつ撮る、くだらんが欠席もできない。」と述べているけど、最もバラまかれたのは東京ではないか。それとも、総合特区(の甘い蜜)を東京で独占して、「東京一極集中*6を強化したかったのだろうか。ちなみに、猪瀬直樹は、副都知事に就任する以前(2007年)は、「東京DC特区構想*7を提案している。これは「日本の首都である東京は一流企業が集中しているため莫大な税収をあげており、地方自治体の中で税収の偏在している東京とそれ以外で格差が生じている。東京駅を中心に新宿駅までの約5キロを半径とした円の中を、首都機能に特化した国直轄の東京DC特区にする。東京DC特区の税収は地方自治体の税収格差の是正するため、財政の苦しい地方自治体に回すとしている。」(ウィキペディアより引用)という構想です。つまり、猪瀬直樹は、副都知事に就任する以前は、上記の総合特区とは正反対の構想を提案しているのです。更に、東京都知事石原慎太郎も、1999年東京都知事選挙において、「かつては(首都機能の)移転論に賛成していた」のに、「(首都機能の移転の)「絶対反対」を公約に当選した」(ウィキペディアより引用)のです。前に(僕の)別ブログの「雑記3」の記事で、「地元の利益を第一に考えることは、そこから選出された代表者の責務かも知れませんが」と書いたのだけど、石原慎太郎猪瀬直樹は、東京の代表者という立場から政治活動(及び発言)をしているのであって、国全体の利益を考える事は、国と東京がWin-Winの関係にならない限り、立場上、難しいのだと思います(これは政治の「仕組み」*8の問題だと思います)。また、大阪の総合特区では税の免除期間が「5年間」とあるのに対して、東京の総合特区では期間が明記されていない点も気になります。実質的に東京の総合特区は2002年に制定された「都市再生法*9の延長線上にある(更にパワーアップした法律である)のです。いずれにせよ、最後に僕の感想を荒くまとめると、総合特区は「地方分権*10への「呼び水」になるという理由で僕は(無邪気に)支持していたのだけど*11、蓋を開けてみると、本来の主旨(地方の活性化)とは異なる指定のされ方がされている(東京に最もバラまかれている)、これはおかしいのではないか、といったところです。前回の「2020年の東京」の記事で、「郊外物件は対象外に=認定省エネ住宅で―国交省」(時事通信、2011年12月29日)のニュースに関して、「「中間」をとる事によって、最悪の制度になってしまっている」と書いたのだけど、今回も「中央集権」から「地方分権」への移行期(「中間」)に乗じて、「中央集権」をより一層、強化しておこうという「偽計」が仕掛けられているように見える、または、同じく前回の「2020年の東京」の記事で、「日本の「コンパクトシティ」は、欧米とは異なる歪(いびつ)な代物でしかない」とも書いたのだけど、今回も「欧米とは異なる歪(いびつ)な代物」になってしまっているように見えるのです*12。「地方分権」は一気にやったほうが良い。以上です。

さて、経済学者のカール・ポランニーは、著書「人間の経済」(1977年)で、「古代ギリシア市場はポリス内部の地域市場と対外用の市場に分かれていたとし、対内市場の例としてアゴラ、対外市場にはエンポリウムをあげている。アゴラは中央集権制度にかわって食料の再配分を行なうための制度となり、民衆に食物を供給し、新鮮な食材や調理ずみの食品が売られた。アゴラには、カペーロスという小売人が居住していた。(中略)アテナイは商業的なアゴラを推進したが、アリストテレス*13は市場としてのアゴラと政治的なアゴラを分離することを主張した。」(ウィキペディアより引用)、「エンポリウムには、対外交易者であるエンポロスが居住した。アテナイではピレウスエンポリウムが存在し、取り引きは、ディグマ(deigma)と呼ばれる埠頭で行なわれた。」(ウィキペディアより引用)と論じている。

ま、僕は古代史はあまり詳しくないのだけど(汗)、前に(僕の)別ブログの「東日本大震災からの復興とハワードの田園都市」の記事で引用したように、「アゴラ」は「民主主義のための場所」でもあるのだけど、世界経済がグローバル化する現代では、かつては埠頭(ベイエリア)にあった「対外市場」の「エンポリウム」が、津波のように内陸部へ浸食して「対内市場」としての「アゴラ」が呑み込まれてしまう事で、「民主主義のための場所」としての「アゴラ」も消失しているのではないか、という物語(仮説)の可能性を少し考えてみた。例えば、前に本ブログの「TPPの賛否」の記事で、「大型ショッピングセンターが既存の商店街の客足を奪い取る」と書いたのだけど、「大型ショッピングセンター」が「エンポリウム」、「既存の商店街」が「アゴラ」と対置できるのではないかとか、前に本ブログの「廃県置藩――Abolition of the ken system」の記事で書いた「基礎自治体」を市場から庇護された「民主主義のための場所」とする事には無理があるのではないか、等々です。あと、今読んでいる大瀧雅之著「平成不況の本質――雇用と金融から考える」(2011年)の「あとがき」から少し引用すると、「(前略)目には見えないもの、あるいはみなで守らなくてはならないものも、壊すことで、儲かるなら、それは「効率的」*14だというのが、この一〇年の日本である。経済学的に言えば、こうしたものは効率的でも何でもない。(中略)土地の容積率規制緩和で、東京のどの街も乱開発状態である。(中略)このような真空化あるいは砂漠化した社会に、潤いを取り戻そうとしない限り、いかなる経済政策も空中楼閣に終わるだろう。」(P.183-184)です。と言うわけで、今年(2012年)は僕は、都市の「潤い」について考えていこうと思います(キリッ)。ついでに、この本で著者は、「IT革命」(IT機器)がもたらした弊害(人格の画一化、等々)についても言及しています。うーん、確かに、今回の記事は「ウィキペディアより引用」だらけです。この曲のPV(→動画*15)を思い出した(ワラ)。来週は、鈴木伸子著「東京はなぜ世界一の都市なのか」(2012年)と山下祐介著「限界集落の真実――過疎の村は消えるか?」(2012年)を読む(買ってある)。この2冊のコントラストは「僕らしさ」です(たぶん)。とりあえず、(僕の)別ブログの「超郊外の景色」の記事参照。今回の記事(の後半)は、やや話を端折りすぎたかも知れないけど、以上ですw。ではまた(ドタバタ)。

*1:(僕の)別ブログの「柏から考える」、「柏の葉から考える」、「「逆都市化」する東京」の記事参照(千葉県柏市)。ついでに、「千葉県、初の人口減少 東京圏1都3県も人口減時代に」(asahi.com、2012年1月9日)も参照。(僕の)別ブログの「Star House (星型の家)」の記事参照(「2015〜2020年頃から首都圏人口も減少へ向かう、と(統計で)予測されている。日本は未知の領域に突入する。」)

*2:(僕の)別ブログの「雑記4」、「クルーグマン」、本ブログの「ケインズvsハイエク」の記事参照(橋下徹

*3:本ブログの「体制維新――大阪都」の記事参照(同書)

*4:山手線に新駅…東京の新玄関口・国際的ビジネス街へ」(読売新聞、2012年1月5日)も参照

*5:本ブログの「鉄道の未来学――2011年の鉄道とその未来」、「2020年の東京」の記事参照(猪瀬直樹

*6:(僕の)別ブログの「Googleplex & iSpaceship」、本ブログの「廃県置藩――Abolition of the ken system」の記事参照(東京一極集中)

*7:本ブログの「永久公債、国有不動産」の記事参照(「永田町・霞が関再開発計画(仮)」)

*8:本ブログの「TPPの賛否」、「体制維新――大阪都」の記事参照(「新しい仕組みをつくる」)

*9:(僕の)別ブログの「Material World -2」、「クルーグマン」の記事参照(都市再生法)

*10:本ブログの「廃県置藩――Abolition of the ken system」、「2020年の東京」の記事参照(地方分権

*11:ちなみに、池田信夫著「もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら」(2011年)では物語上、大阪が「独立国」(!)になるのだけど、この際に用いられた制度は「総合特区」です。引用すると、「大阪を『独立国』にするのです。(中略)時限立法で3年間、大阪を丸ごと特区にして、法律と矛盾する条例を制定してもいいことにします。」(P.179-180)。本ブログの「丹下健三「建築と都市」――機能主義の限界」(と注釈1)、「2020年の東京」の記事参照(同書)

*12:欧米にも「総合特区」のような制度がある。興味がある方は、自治体国際化協会の「ロンドンの分散(Decentralisation)政策と都市開発」(PDF形式)、「政策的分散から自由な分散へ」(PDF形式)を読んでみてください(50ページもあるけどなw)

*13:(僕の)別ブログの「ギリシャ型とローマ型」の記事参照(アリストテレス

*14:(僕の)別ブログの「柏 マイ・ラブ」、「雑記6」注釈11、「都市の非能率性と非実用性」、本ブログの「廃県置藩――Abolition of the ken system」注釈8、「廃県置藩-2」注釈1の記事参照(効率性)

*15:初音ミク、「マトリョシカ」(2010年)の動画。本ブログの「アイコンの消失」の記事参照(初音ミク)。「ボカロ曲『マトリョシカ』、JOYSOUNDカラオケ総合ランキングで1位」(ニコニコニュース、2011年12月11日)も参照。ついでに、「Google ChromeのキャンペーンCM」(初音ミク)も参照(→動画)。こういうの大好きw。「話題のlivetune feat. 初音ミク『Tell Your World』、楽曲配信スタート」(@ぴあ、2012年1月19日)も参照