鉄道の未来学――大都市の鉄道の未来

(前回の「鉄道の未来学――新幹線の未来(の続き)」の続き。引き続き、梅原淳著「鉄道の未来学」(2011年)からの引用です。)

■第二章 「大都市の鉄道の未来」

 首都圏、中京圏京阪神圏にはすでに網の目のように鉄道が張りめぐらされている。加えて低成長の時代を迎えたので、大都市圏といえど、よほど人口が急増している地域でもなければ新たな路線が開業する予定はない。(P.104)

ここから先は、著者は「今後、大手私鉄で最も注目したい鉄道会社は相模鉄道であることは間違いない。」(P.112)として、この「相模鉄道」の未来を詳しく説明されているのだけど、千葉県(柏市)出身の僕としては、いまいち神奈川県(横浜市)の事はよく分かっていない(汗)。前に(僕の)別ブログの「「逆都市化」する東京」の記事の追記で図示したように、柏市横浜市は(東京を中心に)ちょうど正反対の位置にあるので、柏市から横浜市は、東京の影に隠れて見えないのです。(もちろん、横浜市からも柏市は見えないでしょう。)
ま、とは言っても、仕事で横浜市(山下町)に行っていた時期もあって、その時の横浜市の印象をあけすけに言うと、「違和感がありまくり」です。のほほんとした脱力感がありまくりの(田舎の)柏市出身の僕からすると、横浜市は都市環境に対して、神経質(潔癖症、過敏症)に見えるのです。横浜市は、地面の全てを芝とレンガ舗装で敷き詰めないと気が済まないのだろうか。まるで、アーバン・ホラーの世界です。やり過ぎです。でも、きっと、横浜市はお金があり余っているのでしょう。もちろん、都市計画家と建築家にとっては、横浜市は美味しいパトロンです。でも、念のために書いておくと、都市計画家と建築家の口からは「やり過ぎではないか?」とは絶対に言えない(言わない)という事です。都市計画家と建築家はどんな状況であっても「まだ足りない」と必ず言うのです。当然ですね。いずれにせよ、(田舎者の僕としては)、のほほんとした脱力感がありまくりで超適当に計画されてタイヤだらけで開放的で空と雲がきれいで稲穂が風になびいている柏市のほうが落ち着きます(ワラ)。(僕の)別ブログの「ハイブリッド世界の本質」の記事も参照(「マリンルージュ」、→動画)。あと、この章で書かれている「相模鉄道」の未来については、神奈川県の人には結構、面白いと思います(P.104-113)。でも、割愛(おいおいw)。

(前略)結論を申し上げよう。残念ながら、通勤ラッシュは現状のままで永遠に続くと考えたほうがよい。
(中略)理由はとても単純だ。ラッシュが緩和されすぎてしまうと鉄道会社は儲からないからである。(中略)相模鉄道(中略)にとってラッシュ時の損益分岐点は混雑率140パーセント前後なのである。この数値は各社によって異なるだろうが、100パーセントを下回ることはまずないはずで、ましてや全員が着席可能な50〜60パーセント台であるなど考えられない。(P.113-P.114)

ま、要するに、大都市・東京は、「ラッシュが嫌なら都心マンションに住みなさい(!)」と命令的に叫んでいるわけです(汗)。でも、都市(物理空間)は有限です。(僕の)別ブログの「マンハッタンのゆくえ(前)」の記事参照(「(前略)この必要性は、明らかに、高級な不動産開発に新しい方向を与えはじめた。」、クラレンス・ペリー、1929年)。また、経済学者のフリードリヒ・ハイエクは、「世界における財貨の量は有限である。人間の欲望は限定されない。そこに起こってくるのは不足ということである。限られた財と無限の欲望の間に生じる不足を調整するのは何か。ルールを発見することだ。」と述べている(渡部昇一著「自由をいかに守るか――ハイエクを読み直す」(2008年)より、P.250)。

(追記。相田みつを著「うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる」(2011年))

ところで、上記の「混雑率」とは、「100パーセントの混雑率とは全員が座席に座っている状態ではない(中略)。通勤に用いる鉄道車両の定員とは、座席部分のほか、1人当たり面積0.3平方メートルの床区分を立席定員として加えたものだ。国土交通省によると、100パーセントならば「定員乗車(座席につくか、吊革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる)」の状態だという。この理屈に納得できない人も多いだろうが、そのように取り決めているのでやむを得ない。」(P.27)との事です(ワラ)。更に、「(前略)どの路線とも朝のラッシュ時の混雑率が最大だ。特に混雑率が209パーセントとワースト1位の京浜東北線では1時間に26本と、平均で2分18秒おきに10両編成の列車が運転され、およそ3万9000人分の輸送力があるにもかかわらず、8万人を超える利用者が押し寄せて大混雑が続く。」(P.23)。そろそろ、書くペースを上げます。

 ラッシュ時に多くの利用客でにぎわうのになぜ鉄道会社は儲からないのだろうか。これは簡単で、利用客の大多数が携えている通勤定期乗車券の割引率が大きいからだ。
 鉄道以外の乗り物を専門としているある評論家は鉄道の運賃体系を見て驚いた。「運賃・料金とは利用客の多いピーク時に高くなり、閑散時には安くなるものなのに、鉄道はラッシュ時の運賃が最も安くなる」と。
 普通乗車券で30・90・180往復するケースと通勤定期乗車券とを比べてみよう。相模鉄道の本線横浜―海老名間を利用する場合、(中略)仮に電車を毎日利用し(中略)たと仮定すると、普通乗車券のそれぞれ1万8000円、5万4000円、10万8000円に対して(通勤定期乗車券では)34.9パーセント、38.1パーセント、41.4パーセント割引となる。こうなると割引率はとても高い。(P.114-115)

 大都市圏の踏切の問題と言えば、何と言っても開かずの踏切となる。(中略)開かずの踏切の解消策は立体交差化をおいてほかにない。しかし、線路側、道路側どちらかが高架あるいは地下となるにせよ、立体交差が完成するまでの間には多額の費用と時間を要する。
(中略)開かずの踏切などで毎日苦労されておられる方々には言いづらいのだが、2020年代の世を迎えても現在と変わらない状況が続いている可能性が高い。(P.117-119)

 JR東日本JR東海JR西日本大手私鉄といったいわゆる巨大な鉄道会社が最も恐れることは何だろうか。それは利用者数の減少である。それでは前年度比どのくらいまで落ち込むとダメージが生じるのだろうか。10パーセント、15パーセント――。多くの方々はこのあたりの数値を思い浮かべられたことであろう。
 答えは1パーセント。その謎を解くカギは鉄道会社特有の財務体質にある。鉄道事業というのは設備事業と言ってよい。巨大で高額な線路や車両を用意して利用者や貨物を目的地まで運び届けるため、支出した費用に占める固定費の割合が非常に高いのである。(中略)今日まで経営が成り立っていた日本の鉄道は世界のなかでも特異な存在だと言っていい。(P.127-130)

 JR西日本富山港線を引き継ぎ、富山駅周辺に新たな線路を敷設して富山ライトレールが開業したのは2006(平成18)年4月29日のこと。日本初のLRT富山駅北―岩瀬浜7.6キロメートルを結んでいる。
 開業から5年余りが経過したものの、富山ライトレールに次ぐLRTは現れない。建設工事費の問題が大きいことはもちろん、ほかにもさまざまな理由がある。なかでも、LRTがふさわしい場所が案外少ないという点を筆者は挙げておきたい。
(中略)LRTというのは一つの列車当たりの輸送力が60〜150人と小さい。最も少ない60人というのは大型の路線バスと同じ定員であり、これだけの輸送力しか得られないのならばバスでよいと考えるのは当然だ。何しろ、初期投資額や固定費は圧倒的にバスのほうが安価だからである。
(中略)もう一つの問題は(中略)列車を増発するには車両を増やす必要があり、また忘れてはならないのは、道路上を行くLRT無人運転が非常に困難なので、運転士も多数採用しなくてはならない。(中略)人件費その他で1人当たり最低1000万円は必要になる。(中略)おいそれとは列車を増やせない。となると利用客からそっぽを向かれることは必至で、利用者数の減、赤字、廃止という道をたどる。これはかつて大都市に敷かれていた路面電車がたどった道だ。
 それでもLRTに向いている都市は存在する。現在路面電車が走っている都市だ。いま路面電車が健在の都市はいくたびもの淘汰に耐えて生き残ったところで、利用者数は多すぎず、少なすぎず、適当な規模をもっている。これらの都市を無視して新たにLRTを敷設しようと考えても候補地が少ないことは明白だ。とはいっても、路面電車の事業者はどこも苦しい経営状況が続いていて、LRTへと脱皮させるには資金面で非常に厳しい。ある事業者によれば、下手に車両や施設を更新するよりも昔ながらのものを用いて営業を続けるほうがよほど効率的だという声も聞かれる。
 かつて新交通システムモノレールに多くの鉄道会社や地方公共団体は興味を示したものの、開業ブームはとうの昔に去ってしまった。LRTが同じだとは言わないが、短所を正確に把握しなければ、同じ轍(てつ)を踏むだろう。(P.130-132)

前々回の「鉄道の未来学――日本の鉄道の現状と新幹線の未来」の記事の追記でも書いたのだけど、上記の「ライトレール(LRT)」に関しては、(僕の)別ブログの「ドイツの田園都市」、「Star House」の記事参照。
無人運転」に関しては、「ドイツの田園都市」注釈6の記事で書いた、「アブダビの環境未来都市「マスダール・シティ」」の「個人用高速輸送機関(Personal rapid transit(PRT))、→動画動画)」も参照。
あと、「Google、“自動運転カー”プロジェクトを発表――既に公道で試運転中」(ITmediaニュース、2010年10月10日)、「ところでGoogleの自動運転カーって合法?(動画あり)」(ギズモード・ジャパン、2010年10月12日)、「手ぶら運転が可能に? Volkswagenが自動運転システムテスト中!」(ギズモード・ジャパン、2011年6月28日)、「完全にロボットが運転するドライバーレスカーが法律で認可! 運転手のいない自動車が路上を走り出す時代に...」(ギズモード・ジャパン、2011年6月30日)も参照(→動画動画動画)。

あと、上記の「これはかつて大都市に敷かれていた路面電車がたどった道だ。」を分かりやすく解説すると、例えば、サイトを開設してアクセス数が急増したのに、(コスト上の都合で)サーバの増強ができないでいると、「利用客からそっぽを向かれることは必至」(利用客は他のサイトへ行ってしまう)という事です。そのようにして大都市の「路面電車」は「利用者数の減、赤字、廃止という道」をたどったのです。

以上です。他にも、「東京地下鉄東京メトロ)の売却」についても書かれているのだけど、現在進行中なので、とりあえず、最新のニュース参照。著者は「いずれにしても、2010年代に予定されている東京地下鉄の完全民営化時の動向には目を離せない。そして、東京地下鉄の動きを契機に鉄道業界再編の波が一気に押し寄せるとも考えられる。長年親しまれた大手私鉄の名は消滅し、JR○○となっていた――などという出来事が2020年代に起きるかもしれない。」(P.142)と述べています。

第二章「大都市の鉄道の未来」はここまで。では。

鉄道の未来学――幹線の鉄道の未来」に続く。