耐用年数を超えた高速道路の維持更新に税金は1円もいらない――笹子トンネル崩落事故を政治利用する自民党を批判する

 
昨日、本ブログに「土建から教育へ――」の記事を書いた後に大変痛ましい事故を知った。「笹子トンネル 重さ1t以上の天井板150枚近く落下」(テレ朝news、2012年12月2日)によると、事故が起きた中央自動車道笹子トンネルの構造は、「道路から高さ約4.5メートルに、厚さ10センチほどの天井板と呼ばれるコンクリート製の板が水平に取りつけられていました。天井板の上は空洞になっていて、トンネル上部からつるす構造」になっていて、これが何らかの原因で崩落したらしい。

僕は建築畑で土木の事はよく知らないのだけど、東日本大震災等で問題となったのは「つり天井」の崩落である。大ざっぱに言えば、建築には構造部材と非構造部材がある。構造部材はメインで非構造部材は付属物(おまけ)の位置付けになっていて、耐震設計基準等では前者は厳しく法で定められているのに対して後者はかなり緩くなっている。「つり天井」は後者である。そして、震災等ではこの「つり天井」が崩落して多数の死者が出ているのだ。おかしな話だと思う。建築の設計思想が根本的に間違っているとしか言いようがない。昨日起きた笹子トンネルの崩落事故でも、これと同様の問題があるのではないかと考えられる。

また、今回の崩落事故を一般化して語る向きもある。今回の崩落事故は例えば「道路が陥没し、首都高や地下鉄は危険地帯に!? 老朽化したインフラが“モンスター”になる日」(ダイヤモンド・オンライン、2012年10月19日、神尾文彦、宇都正哲)の記事で描かれているような「インフラ・クライシス(公共設備の危機)」の始まり(兆候)であると言った語りである。これは確かにその通りだろう。インフラの耐用年数を50年と想定すると、戦後の高度経済成長期に建設されたインフラはすでに更新(建て替え)時期に差しかかっていると言ってよい。でも、注意しなければならないのは、インフラの更新にかかる費用を一体「誰」が負担するのか? という問題だ。

自民党今回の衆院選で「国土強靭化200兆円計画」を掲げている。そして、「早急にトンネル改修を=安倍氏【12衆院選】」(時事通信、2012年12月2日)によると、「自民党安倍晋三総裁は2日、宮崎市内で開かれた党の会合で、中央自動車道で発生したトンネルの天井板崩落事故に触れ、「耐用年数を超えているものは直ちに補強、改修していく必要がある。それこそ国、政府の使命だ。無駄遣いではない」と述べ、必要な公共投資は進めるべきだとの考えを強調した。」らしい。でも、忘れてはならないのは、今回の事故現場となった中央自動車道を借り受けているNEXCO中日本(中日本高速道路株式会社)は民間企業なのであるという事である。なぜ一民間企業の施設の更新に公共投資をしなければならないのだろうか。そもそも一体何のために道路公団民営化をしたのだろうか。

公共投資をしなければならないのは耐用年数を超えた一般道路であって高速道路ではない。耐用年数を超えた高速道路の更新にかかる費用は利用者からの通行料金収入に基づくべきである。自民党安倍晋三総裁は公共投資すべき道路の分別ができていない、または、今回の崩落事故を自民党の「国土強靭化200兆円計画」を正当化するために政治利用している。後者であれば、悪質である。また更に、「<中央道トンネル崩落>天井のつり金具 打音検査をせず」(毎日新聞、2012年12月3日)には、「中日本高速道路は2日の記者会見で、つり金具とトンネル最上部の結合部分の点検について打音検査をせず、目視のみで済ませていたことを明らかにした。さびやボルトの緩みなど重要項目にかかわる部分の点検態勢に不備があった可能性が浮かんだ。(後略)」とある。これが事実であるならば、今回の崩落事故の原因は耐用年数ではなくて一民間企業の「過失」にあるという事になる。政府がなすべき事は、トンネルの安全維持の基準の見直しや責任の追及等であって、過失を犯したかも知れない企業に公金をジャブジャブと流し込む事ではない。

以上です。

追伸。崩落事故現場での救助活動は今も続いていて、無事に救出されることをお祈りするとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。