亀田メディカルセンター院長・亀田信介氏「危ないのは首都圏!」(メモ)

 
カンブリア宮殿」(テレビ東京)の「全国から患者続々の超人気病院――患者も医師も大満足のワケ…革新経営で医療の危機を救う」(2012年6月14日放送)のゲスト、亀田メディカルセンター院長・亀田信介氏の発言を、少しテキスト化してみた。

前に本ブログの「東京(首都圏)は滅亡する―第1回」の記事で載せた、「人口あたりの医師数が九州四国で多い理由」(ただのメモ帳、2012年6月25日)のブログ記事に、「カンブリア宮殿公式サイトで過去動画が見れるので、最近いろいろ見てるんだけど、放送時にカットされた部分も動画では見れるので面白い。この前、亀田メディカルセンターの院長が登場した回を見たら、これも面白い。(後略)」とあったので、この番組(過去動画)を観てみたら、本当に面白かったw。と言っても、全部はまだ観てなくて、その「#6「危ないのは首都圏!」」(15分くらいだけ)を観ました。

えーと。直接のリンクの貼り方が分からないのだけど(汗)、とりあえず、前述の「カンブリア宮殿の公式サイト」を開いて、画面右上の「⇒」を3回くらいクリックすると、「亀田信介氏0625O.A.」が出てくるので、これをクリックして、それから、右列をプルダウンすると、「#6「危ないのは首都圏!」」が出てくるので、これをまたクリックすると、この過去動画が観れます。今回の記事は、ここから「亀田メディカルセンター院長・亀田信介氏」の発言を主に、少しテキスト化してみた。では、下記。

小池栄子
(前略)先生、あの何でも首都圏がこれから(医療の)需要と供給のバランスが崩れてきて一番まずいんだとおっしゃいますけど、それはどういった事なんでしょうか? 教えて下さい。

亀田信介:
じつは東京圏(首都圏)は国連では――東京、神奈川、千葉、埼玉というのが主な圏域なんですけれども――東京圏という圏域人口は3600万人以上と登録されています。世界最大の人口を持つ都市なんですね。2番目がデリーというところで――インドですね――ここが2200万人。ニューヨークは――都市部人口はニューヨークは700〜800万人だと思いますけど――いわゆる国連における都市圏人口はニューヨークでは2000万人弱で6位なんですね。デリーが2200万人強で2位で、ニューヨークが2000万人弱で6位。東京が3600万人超という事がどのくらい圧倒的に大きい都市圏か、という事になりますけど、この世界最大の都市圏が、じつは人類史上、最高のスピードで高齢化が進みます。今後まだまだ10〜20年の間、絶対的な高齢者人口が増えるんですけれども、全国で増える高齢者人口の約1/3が首都圏だけで増えます

ところが、東京に住んでいる方、あるいはその近郊に住んでいる方は、(東京圏には)たくさん病院の看板が立っているし診療所もあるから、医療崩壊なんていうのは、自分たちの問題ではなくて、どこか北海道とか田舎の問題だろうと、こういう風に思っているかも知れませんけど、とんでもない話で、じつは今、例えば人口10万人当たりの医師の数を比較しますと、一番少ないのが埼玉県で47位です。千葉県が45位で、神奈川県が39位です。人口当たりの看護師の数人口当たりの病床数、これは神奈川が最低。47位が神奈川、46位が埼玉、45位が千葉、首都圏のベッドタウンと言われる地域を持った3県がワースト3になっているんですね。このように、既にこれから一番速く高齢化が進んでいく地域がじつは一番医療資源に乏しい地域です*1。田舎はもう既に高齢化がある程度進んじゃっているんですけど、今後、都会(とくに東京)が一気に高齢化していくわけですね。しかし、今お話したように、非常に人口当たりの医療資源が乏しい。今からこれに対応するのは、非常に難しい状況になってしまっています。*2

小池栄子
全然、大丈夫だろうと思っていました(汗)。

村上龍
小池さんは若いですから。僕は今年、還暦になったんですが、(中略)体は確実に弱くなっていくんですよ。(中略)これだけの人口が一気に高齢化していくわけですから、今でも周産期医療で妊婦さんが救急車で――本当はマスコミが悪いところがいっぱいあるんですけど――「受け入れ拒否」と言うけど、本当はベッドが空いていれば、救命救急のお医者さんだって取りたいのに「受け入れられません」という事だから、本当は「受け入れ不能」と書かないとならないんだけど、(マスコミは)「受け入れ拒否」と書いたんです*3。「受け入れ不能」とでも書くと、何か大変な事が起こっているんで、何とかしなきゃと世論も少しは喚起できるんだけど、「受け入れ拒否」と書いちゃうから……

小池栄子
(本当は)できるのにできない(と病院は言っている)、と捉えられちゃいますよね。

村上龍
どこの病院だって救急車で(患者が)来れば診たいですよ。でも、全ての救命救急が満室だから(中略)。今、もう既に先生がおっしゃっているような医療のパンク寸前の状態は、もう進行中なんですよね?

亀田信介:
そうです。今、おっしゃられたように、年齢によってどのくらい医療資源とか介護資源が増えるかと言うと、例えば15歳〜45歳の一番元気な人たちが年間に使う医療資源を1とすると、大体、65歳以上の方で6.5倍。75歳以上のいわゆる「後期高齢者」と言われる方で8倍。これは医療資源だけなんですね。介護資源まで入れると、75歳以上の方1人で医療介護資源を若い人の10人分使っちゃうんですね。その方たちが猛烈な勢いで、絶対数が増えるのが都市部なんです。とくに高度経済成長の時に同じ団塊の世代と言われるような同じ年齢層の人たちがみんな地方から東京に集まった、この方たちが一気に、高齢者になっていって医療資源を必要とするわけですね*4。この急激な医療需要の高まりを「オーバーシュート」と言うんですけど、ここについては、今後、人類史上あり得ない、日本の問題でもなく、世界の問題でもなく、この大東京圏という凄く特定のところの特定の時期の問題であって、もちろん、今までにもなかったですけど、今後の30年間で起こる事は二度と起こらないだろう、と言われているぐらいじつは大変な事なのです。*5

村上龍
具体的に言うと、「肺がん」ですって診断されて要手術っていう場合に、残念ですけど半年先まで「肺がん」の手術はできません、と言われるような時代ですよね?

亀田信介:
そういう事です。渋滞というのは、じつは供給が需要をちょっとでも上回っていれば、多少、この渋滞の原因が何らかの原因で起こっても、どんどん伸びる事はないんです。ところが供給がちょっとでも需要を下回ると、もう縮まる事はなくて、しかもこの需要がどんどん増えるわけで供給との差が大きくなっていきますから、渋滞の伸びる速度が速くなって……

村上龍
加速度的に……

亀田信介:
加速度的に、指数関数的に伸びていくんです。今、首都圏の、例えば一般病床の需給っていうのはほぼ100%に近付いているんですね。ま、分かりやすく言うと、今、電気の問題がありますね。電気の発電量(供給量)を需要が上回ってしまうと、みんな停電しちゃうかも知れない、と大きな問題になっていますけど、まさにそれと一緒で、例えばコンピュータもCPUっていうのが70%〜80%ってなってくると、凄いスローダウンして、パフォーマンスが落ちてきて、ある時にドンとダウンしちゃうわけですね。医療でも今後、首都圏ではそういうある時突然ダウンをする、というような事がもう時間の問題で起ころうとしている、これを認識しなくてはいけないと思っています。

村上龍
兆候はいたるところにあります。怖いでしょう?

小池栄子
怖いですね。

村上龍
ちょうど小池さんが高齢者になる頃じゃないですかね。

小池栄子
怖いですね。

村上龍
もっと早いかも知れない。

亀田信介:
もっと早いです。たぶん今から5年〜10年の間には起こる。

小池栄子
その割にはのんびりとしていますね。日本は。

亀田信介:
そうですね。これから、たぶんこういうデータが世の中に出てきて、ある程度の問題意識を持つようになると思いますけど、かなりその解決法も難しいので、なかなか正確な情報を出したくないってのも事実だと思います。

村上龍
15歳〜45歳が1に対して(高齢者が)8とか10っていうのはデータですよね。更に悪い事というのは、そうした事態になった時に、最もしわ寄せを受けるのがセーフティネットを必要とするお金がない層だと思うんですよ。そういう時になってくると、例えば――今でもありますけど――会員制の何とかだとか、そういうところで富裕層は、極端な話、海外へ行って手術を受けてもいいわけですから。そういう時に最も困るのが貧しい人たち。お金持ちはそういう時は何とか逃げる事も……

亀田信介:
まさに一番ダイレクトに一番被害を受けるのは、おっしゃられた通り、貧しい方々だと思いますけど、お金持ちにとっても大変な事なんですけれども、ただ、先ほど、東京の問題であってじつは日本の問題ではないと申し上げたのは、一般病床の需給率ってのは東京圏は90数%まで行っているんですね。ところが九州、四国というのはまだ50%なんです。それでじつは30年後も、平均すると、60%に届かないぐらいなんです。ですから、極端な話、お金持ちの方は九州へ行けば手術を受けられる可能性はかなりあります。あの、私が言いたいのは、たぶん多くの国民が、東京が一番安全だろうと思っていると思うんです。(でも、そうではなくて)それと全く正反対な事が今、起ころうとしているという事、これを認識してもらうというのは非常に重要で、是非、今後マスコミの方々にも正確なデータを取ってですね、どんどん報道していただかないと問題が表に出てこないと思います。

村上龍
何で九州とか四国が病床数が大丈夫か分かる? 長い話ですよね?

亀田信介:
長い話です。

小池栄子
ハッピーな話ですか?

村上龍
ハッピーな話と言うか、明治維新とかそういう長い話。*6

亀田信介:
そうです、そうです。

村上龍
(中略)首都圏が非常にリスクが高いっていうお話ですけど、解決法と言うかソリューションみたいなものは考えられるんですか?

亀田信介:
実際には非常に難しいと言うか、あらゆる事が絡んでいるんですけれども、ともかく、今までの制度とか今までのやり方の延長線上に絶対答えはないんですね。経験した事のない、人類始まって以来の事ですから、完全に不連続な形での制度の改革であったり対策をしていかなきゃいけない。そのためにはやはり本当にどうすべきか、幸せな長寿社会をつくるにはどうしたらいいのか、という事を、今までの前例とか、それから既得権――さまざまな団体とかですね、そういう人たちや組織が持っている既得権とか、あるいは利権とか――そういうものをやはり全部排除して、本当に、純粋に、これを乗り切るためにどうしたらいいかという議論、これを行っていかなきゃならないと思います。既得権とか前例をちょっとでも守ろうとしたら、たぶん第二次世界大戦の時みたいに焼け野原になるまで何も変わらずにですね、どうしようもなくなってから事を始める、という事になってしまうんじゃないかなという風に思います。

村上龍
最後の話は重かったですけど、僕もメディアの一員としては責任あります。どうもありがとうございました。

小池栄子
ありがとうございました。本日のゲストは亀田メディカルセンター院長・亀田信介さんでした。ありがとうございました。

以上です。

意外と時間がかかった(ははっw)。音声(話し言葉)をテキスト(書き言葉)化するのは、意外と大変な作業だと分かりました。二度としません(こらこらw)。と言うのは冗談だけど、前回の「松谷明彦著「人口減少時代の大都市経済」からの引用集(メモ)」の記事に続いて、今回もとても勉強になりました。また、前回の松谷明彦名誉教授も、今回の亀田信介院長も、ほとんど同じ問題意識を共有されているのではないかな、と思いました。ま、とは言え、「医療」について少し(ネットで)調べてみたのだけど、この分野は本当に複雑怪奇と言うか、魑魅魍魎と言うか(ははっ…)、さっぱり分かりません。ま、いずれにせよ、(今回の記事で書いた)この番組は本当にとても勉強になりました。ありがとうございました。亀田信介院長の今後一層のご活躍をお祈りいたしております。ではまた(ドタバタ)。

「東京(首都圏)は滅亡する―第3回」に続く。

*1:前に本ブログの「東京(首都圏)は滅亡する―第1回」の記事で、「(前略)前に本ブログの「電車内のベビーカー利用の賛否」の記事の追記で、「ま、たまに、東京には「病院がたくさんあるから安心である」と言う方を見かける」と書いたのだけど、どう見ても、この僕の“実感”と前述の一連のデータが示している事柄が全く合致していません。「医療」の分野は謎だらけです。わけが分かりません。」とか書いたのだけど、その答えが分かりました。ま、要するに、街中に溢れている「病院の看板」等に騙されているのです(ほんとか?w)。思わず、このシーン(→動画)を連想した(汗w)。関連して、本ブログの「鉄道の未来学――幹線の鉄道の未来」の記事参照(「東京在住者は「耳に心地いい」報道に甘んじている」)。前述の本ブログの「電車内のベビーカー利用の賛否」の記事も参照(「(前略)原則的には、これらの情報をきちんと認知した上で、自分(や家族)はどこに住むかを自らの判断で「選択」すべきです。」)

*2:本ブログの「【都会の歩行者へ】救急車が来たら道をあけましょう」の記事参照(「(前略)都市部(とくに東京)での救急搬送の出動件数は、「高齢化」に伴って、これから間違いなく急激に増えるでしょう。それに対して、地方部では「高齢化」は70年代に始まったので、ピークは既に過ぎているのです。詳しくは、前に(僕の)別ブログの「Star House (星型の家)」の記事で書いた、松谷明彦著「人口減少時代の大都市経済――価値転換への選択」(2010年)を参照。」)。関連して、前回の「松谷明彦著「人口減少時代の大都市経済」からの引用集(メモ)」の記事参照(「より一層厳しい環境に置かれるのは日本の大都市地域であって、地方地域ではない。」)

*3:本ブログの「【都会の歩行者へ】救急車が来たら道をあけましょう」の記事参照(「たらい回し」)。本ブログの「東京(首都圏)は滅亡する―第1回」の記事参照(「ウィキペディアの「たらい回し」の項の「医療における「たらい回し」 」の節によると、「医療における「たらい回し」は、テレビなどの報道媒体から派生した用語である。報道で見られる用法の多くは、病院の「受け入れ不能」「受け入れ困難」の言い換え」で、「近年では慢性的な医師・ベッドの不足などに端を発する医療崩壊により、患者がなかなか病院に受け入れてもらえず、最悪手遅れとなり死に至るケースもある。だが、実際にはかなり多くの例が、不可避な理由での「受け入れ不能な事例であり、それらを考慮せず「たらい回し」という用語を用い、病院・医師側が加害者であるかの様な報道されているケースもある。この用法に関して医療側からは「不適切な用法で読者・視聴者の印象を歪めるものだ」と強い反発が出ている。」との事です。」)

*4:前回の「松谷明彦著「人口減少時代の大都市経済」からの引用集(メモ)」の記事参照(「(前略)一言で言えば、大都市は人を集め過ぎた。それも若い人を集め過ぎた。(中略)そうして集められた人々が、これから先、高齢者になる。大都市地域への人口流入が活発化したのは一九五〇年代の半ば頃からだから、それら大量の流入人口が高齢化するのは、まさにこれからである。」)。ついでに、「2100年の東京:人口が半減し、約半数が高齢者に?」(IBTimes、2012年9月6日)を参照。少し引用すると、「(前略)現在は5人に1人が65歳以上の高齢者となっている東京都は、22世紀までには、都内人口の約半分、46%が65歳を超えるという。高齢化が急激に進む日本では、医療費や財政面での支援がますます必要となる。(中略)2010年には1316万人だった東京都の人口は、2020年に1335万人となってピークを迎えた後、2100年までには約713万人に減少するという。2100年の東京の人口は、1940年と同じレベルになる見通しだ。この大幅な人口減少は、国の運命を左右する。高齢者の年金や医療費を支えるための、生産年齢人口が不足することになるからだ。(後略)」との事です。

*5:前々回の「東京(首都圏)は滅亡する―第2回」の記事参照(「私たちはこれから60年の間は、日本史上、世界史上、人類史上、誰も一度も経験した事のない前人未踏の領域に突入する事になるのです。」)。ついでに、「世界で最も悲惨な2050年迎える国は日本 英の経済誌予測」(NEWSポストセブン、2012年9月19日)を参照。少し引用すると、「イギリスの経済誌エコノミスト』編集部がまとめた『2050年の世界』(文藝春秋刊)が、発売1か月で4万部を超え、ベストセラーになっている。(中略)まずは2050年の世界を俯瞰してみよう。昨年10月に70億を超えた地球全体の人口は、2050年には90億人を突破する。(中略)発展途上国は豊かになるが、一方で先進国は相対的に地位を低下させ、国民の生活の質は停滞か、または後退することになる。その中でも、世界で最も悲惨な2050年を迎えるのが「超々高齢化社会」に苦しむ日本である。『2050年までには、被扶養者数と労働年齢の成人数が肩を並べるだろう。過去を振り返っても、このような状況に直面した社会は存在しない。(中略)日本は、世界史上最も高齢化の進んだ社会となるはずだ』」との事です。うーん。一日も早く(高齢化社会に適応した)新しい社会制度を構築しなければなりません。関連して、本ブログの「電車内のベビーカー利用の賛否」の記事参照(「2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する」(アゴラ、2012年9月5日、城繁幸))。前々回の「東京(首都圏)は滅亡する―第2回」の記事も参照(「英エコノミスト「未知の領域に踏み込む日本」」(読売新聞、2010年11月21日)、「ハンス・ロスリング:地球規模の人口増加について」(TED、2010年6月))

*6:本ブログの「東京(首都圏)は滅亡する―第1回」の記事参照(「まさか明治維新が今の病院とか医者の分布と関係してるとは想像したこともなかった。」)。前々回の「東京(首都圏)は滅亡する―第2回」の記事参照(「救急搬送の所要時間が長い都道府県は(中略)なぜか「西高東低」(西日本では所要時間が短く、東日本では長い)でした。(中略)その答えは薩長土肥(西日本)が主導した明治維新にあるだろう、という事です。と言うわけで、「西高東低」の「謎」は解けました」)